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1996年の「ご報告」

Column Voice Radio Anime Music

女性声優がBlogやTwitterで行う「ご報告」。それは即ち「結婚報告」のことであり、これを目にした声優ファンを悲喜交々、時には阿鼻叫喚の感情を呼び起こすものだったりする。
ところで……この「ご報告」のルーツは一体どこにあるのだろう。女性声優が自身のプライベートにおける一大事を、自身の言葉でファンに伝える。その起源というべき声優は誰なのだろうか?


僕が独断と偏見と極めて個人的な経験から推測するに、そのルーツはちょうど20年前の1996年3月末。井上喜久子さんと、喜久子さんがパーソナリティを務めていた文化放送のラジオ番組『井上喜久子の瑠璃色アクアリウム』にあるのではないか。そんな説を提唱してみる。

井上喜久子 ベスト・コレクション

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井上喜久子 新感覚音楽ユニット アニメロディナイト?

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■「アイドル声優井上喜久子の活躍
まずは「ご報告」をする前の、20年前の井上喜久子さんの活動状況について。
えっ、「喜久子さんは17才だから、20年前はまだ生まれてないだろ」って?……否、当時の喜久子さんはまだ「17才設定」をしてなかったからセーフだ!(←強引)


話を戻して……当時の喜久子さんはOAV『ああっ女神さまっ』のベルダンディー役で大ブレイクした頃。演技力は言うに及ばず、「女神さま」を彷彿とさせる清楚かつ上品なルックス、そして何より天然ボk……もとい「ユーモアセンスに溢れる独特のトーク」で、アニメファンの間で熱狂的な人気を博していた。
折りしも「第3次声優ブーム」と評されるように、声優情報誌が創刊されたり声優がパーソナリティを務める「アニラジ」が急増した時期。喜久子さんは『声優グランプリ』創刊号の表紙を國府田マリ子さんと一緒に飾ったり、ソロパーソナリティのラジオ番組『井上喜久子トワイライトシンドローム』が始まったり。まさに当時の声優ブームを牽引する「アイドル声優」の一人だった。
なお、当時の喜久子さんのキャッチコピーは「マンボウの生まれ変わり」だったりする。これが今の喜久子さんのオフィシャルサイト名「@manbow」の由来なので、声優ファンの皆は覚えておくように。


そして、同名ゲームのタイアップも兼ねていた『トワイライトシンドローム』は半年ほどで終了。その後番組として始まったのが、喜久子さんの個性をよりフィーチャーした『井上喜久子の瑠璃色アクアリウム』だった。
優美なおさかな?elegant

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Perfect Solo Collection

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井上喜久子―ラ・シレーヌ (NEWTYPE CV BOOK)

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■『瑠璃色アクアリウム』の最終回、そして「ご報告」
その『瑠璃色アクアリウム』も放送開始から半年経った1996年3月末に最終回を迎えることになった。番組の終了自体は事前に告知されて、最終回も喜久子さんによるいつも通りの、のんびりほんわかとしたトークで進行していた。
……しかし、その空気も喜久子さんの「みんなに『ご報告』があります。実は私、結婚することになりました。」という言葉で一変した。


僕もこの最終回はリアルタイムで聴いていたけど、正直、この『ご報告』の衝撃で頭が真っ白になって、その後に喜久子さんが喋ったことは正確に覚えていなかったりする。
断片的に思い出してみると……最初に「結婚するからって、引退するわけじゃない」と前置きしつつも「色々と忙し過ぎて、余裕が無くなった」とか「このままじゃいけないと思う。仕事を減らして、もっと勉強したいと思う」とか、これまでのアイドル的な活動の否定とも、事実上の休業宣言とも取れる発言だったと思う。
なお、最後の最後に「言い忘れてました。結婚相手は高校時代の同級生です」と、付け加えるように発言。でもそれは気休めにもならなかった。少なくとも、『ご報告』を聞いた直後の心境では。


かくして『瑠璃色アクアリウム』最終回が終った後の、僕の気持ちはどんなだったか。好きな声優さんの結婚を祝う気持ち、それを敢えて公の場で発表したことへの敬意。一方で、好きな声優さんが今までの活動を否定して休業を宣言した(と思われる)ことへのショックと寂しさ。そんなポジティブあるいはネガディブな感情が混然一体となって、その夜は眠れなかったっけ。
もっとも、夜が明ける頃には「喜久子さんの結婚をお祝いしよう!」という、極めてベタかつポジティブな結論に至ったけど。
井上喜久子のまんぼう放送局

井上喜久子のまんぼう放送局

井上喜久子の瑠璃色アクアリウム 〜まんぼう放送局2〜

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井上喜久子の瑠璃色アクアリウム・セレクション

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■後日談その壱~『久川綾のSHINY NIGHT』~
さて、最終回での「ご報告」という、悪い言い方をしたら「やり逃げ」となる結婚報告を受けて、喜久子さんファンは胸中に渦巻く想いを何処にぶつけるべきか、さぞ悩んだはず。結局、想いの矛先は同じ文化放送の2つのラジオ番組に向けられることになった。


一つは喜久子さんと公私ともに親交の深い久川綾さんのラジオ番組『久川綾のSHINY NIGHT』。久川さん自身がオープニングから「いやー、めでたいねー!ホントにめでたい!」と我が事のように大喜びで、リスナーからの「喜久子さんご結婚おめでとう」というお祝いハガキを何通も紹介していた。
その後、久川さん自身も『SHINY NIGHT』で「ご報告」をすることになった。(これに関しても空前絶後の事態があったけど、それはまた別の講釈)。久川さんの結婚式では、喜久子さんがお祝いとして「好き好き綾ちゃん」という次作の歌を披露したり、ブーケトスでは当時既に子持ちであったにも関わらずブーケ争奪戦に参加したり。まるで『SHINY NIGHT』で自分の結婚を祝ってくれたことへのお礼とばかりに、久川さんの結婚をお祝いしていた。うん、心温まるね。
久川綾 ゴールデン☆ベスト

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■後日談その弐~『小森まなみのエールを君に!』~
もう一つファンの想いが向けられたのが『瑠璃色アクアリウム』の後番組である『小森まなみのエールを君に!』だった。当時既にラジオパーソナリティやアニソン歌手として圧倒的な人気を誇っていた小森まなみさんが、満を持して文化放送でパーソナリティを務めることになる番組だった。
その『エールを君に!』の開始早々に多くのリスナーから寄せられたのが「好きな女性声優さんが結婚した」という話題。……これって、どう考えても喜久子さんのことだよね。
紹介されたハガキは「結婚はショックだけど、ファンとして祝福したい」という優等生的なものが殆どだったけど、中には「僕も将来声優になって、その声優さんと共演したい」という夢を綴ったハガキも紹介されていた。このハガキを書いた人は、果たして声優になれたのか。そして、喜久子さんと共演できたのだろうか。今となっては知る術は無いけど。
小森まなみ パーフェクト・ベスト

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■20年後の「ご報告」ラッシュ
で、その後の井上喜久子さんのご活躍については、皆さんご存じの通り。一時的な産休はあったものの、20年前と変わること無く、否、20年前以上に精力的に活動している。声優としては言うに及ばず、20年前は色々と悩んでいたであろうアイドル声優としての活動も「永遠の17才」として、もはや半永久的な完成形にまで昇華している。そして何より、「母親よりも年上の娘」という衝撃的なキャッチコピーと共に、お嬢さんである井上ほの花さん(18歳)もデビューを飾っている。
もうね、20年前の『ご報告』を聴いた直後の、「喜久子さんがアイドル声優に嫌気がさして結婚を機に引退しようとしている」なんて不安がっていた自分を張り倒してやりたい気分さ。そして言ってやりたいさ、「喜久子さんは20年後も絶好調で大活躍しているぞ!」と。


そして何より、20年前に喜久子さんが前例を作った「声優が自身の言葉で結婚を報告する」という流れは、その後も声優業界に受け継がれていった。後に林原めぐみさんや久川綾さんや三石琴乃さんも、自身がパーソナリティを務めるラジオ番組で、自身の肉声で結婚の「ご報告」を行った。その後はネットに場所を移して所属事務所のホームページや、BlogやTwitter等の個人SNSにて「ご報告」をする声優さんも増えている。で、それを聴いたファンが最初はショックを受けるけど結局は受け入れて祝福するまでがワンセットね。
そんなことができる空気になったのも、20年前に喜久子さんの『ご報告』があったから。そして、当時のアニメ&声優ファンがそれを受け止めて、祝福をしたから。うん、そうに違いない。