語ろう!『キャプテン翼』~from ファミコン神拳~

前回に続いて『キャプテン翼』についての記事。


今回はちょうど30年前に「週刊少年ジャンプ」での連載が終了した直後の、原作者・高橋陽一先生の貴重なインタビューを紹介します。
出典は「ジャンプ」誌上でもなければコミック情報誌でもなく、ゲームの攻略本。当時、「ジャンプ」誌上に連載されていたゲーム紹介記事『ファミコン神拳』の増刊として、「ジャンプ」漫画のゲーム版の攻略本が発行されていました。
そして、その攻略本には巻末に漫画家のインタビューが掲載されるのが慣例でした。今回紹介する『キャプテン翼』の他にも、『ドラゴンボール』の攻略本には鳥山明先生の、『聖闘士星矢』の攻略本には車田正美先生の、『魁!男塾』の攻略本には宮下あきら先生の、当時の貴重なインタビューが掲載されていました。
この辺りは、当時の「ジャンプ」のアットホームさ、「人気漫画家のインタビュー」に対する敷居の低さ、そんなノスタルジーが感じられます。

キャプテン翼

キャプテン翼

なおインタビュアーを務める記者、もとい「伝承者」はキム皇(木村初)・てつ麿(黒沢哲哉)、そしてこの攻略本から加わったカルロス(とみさわ昭仁)の3名。ゆう帝(堀井雄二)とミヤ王(宮岡寛)が不在なのは、メインスタッフとして携わっていた『ドラゴンクエストⅢ』が発売された時期で多忙だったからでしょうか。また『ファミコン神拳』自体も長年連載していた『ドラクエ』シリーズの紹介記事が一区切りし、それに伴いタイトルも『月刊ファミコン神拳』にリニューアルされていました。
週刊少年ジャンプ秘録! ! ファミコン神拳! ! ! (ホーム社書籍扱コミックス)

週刊少年ジャンプ秘録! ! ファミコン神拳! ! ! (ホーム社書籍扱コミックス)

キャプテン翼』と『ファミコン神拳』という、共に80年代の「少年ジャンプ」を代表する両者が、連載終了後とリニューアルという過渡期に交錯したインタビューを、以下に紹介します。

"ゲームは友だちっ!!"のファミ神伝承者3人が、高橋陽一先生の仕事場を訪問。翼くんの誕生秘話など、いっぱい話を聞いてきたで!!








今回のインタビューは高橋陽一先生の仕事場を伝承者たちが訪問する形で行われました。そこで伝承者たちが目にしたものは……。

■いよいよ高橋先生の仕事場を訪問だっ!!
高橋先生:やあ、ファミ神のみんなよく来てくれたね。ついさっき仕事が終わったところなんだ。さあ、どうぞどうぞ。
キム皇:おじゃましまーす。うおっ!玄関を入るといきなり優勝カップやトロフィーの山だぜーっ!!
てつ麿:翼くんの連載記念や、少年ジャンプ愛読者賞のトロフィーがありますね。あっ、野球やボウリング大会のトロフィーなんかもありますよ。先生はスポーツマンなんですねっ!
高橋先生:ははっ、それほどでもないけど、小さいころから体を動かすことは好きだったよ。特に野球が大好きだったよ。"ヒーローズ"っていう野球チームを作ってるんだ。
キム皇:先生は『キャプテン翼』みたいなサッカーマンガをかいているのに、自分ではサッカーをやらないんですか?
高橋先生:いやあ、もちろんサッカーだって大好きだよ。なんたってボクは、スポーツの中でも世界中でイチバン人気があるのはサッカーだと信じてるからね。
自分で実際にプレイするのは野球がイチバンだし、仕事をしていてもついウズウズしてきて野球をしに行っちゃったりするけど、たまにはサッカーボールをおもいっきり蹴りたくなる、なんてこともあるよ。

キャプテン翼 (第1巻) (ジャンプ・コミックス)

キャプテン翼 (第1巻) (ジャンプ・コミックス)

キャプテン翼 (1) (集英社文庫―コミック版)

キャプテン翼 (1) (集英社文庫―コミック版)

衝撃の事実!高橋陽一先生が一番好きなスポーツは、サッカーではなく野球だった!!……というのは、当時からのファンなら周知の事実。そんな高橋先生がサッカー漫画である『キャプテン翼』を描くことになった経緯は後ほど。
それにしても「トロフィーの山」とは、漫画家としての表彰はもちろん、それ以外のスポーツイベントのトロフィーもあるとは。『翼』の週刊連載だけでも忙しかったはずなのに、高橋先生のアブッシヴさには驚かされます。


続いては「ファミコンゲーマー・高橋陽一」の実態に迫る。

■楽しいことだったらなんでも大好きさ!
キム皇:さーて、今度は少しゲームの話をお聞きしたいんですけど、やっぱりスポーツ好きな先生としては、家の中に閉じこもってするファミコンゲームなんてのは、やったことないのとちがいますか?
高橋先生:いやいや、キムちゃんそんなこともないんだよ。ゲームはゲームとしてキチンとした娯楽だからね、ボクは楽しいものならすぐ夢中になっちゃうんだよ。
てつ麿:うわーい!ボクらも楽しいことならなんでも好きです!先生は今までにどんな楽しいゲームをやってこられたんですか?
高橋先生:うーんそうだな、テニス、ゴルフ、サッカー……スポーツもののゲームはいろいろやったなァ。あと『さんまの名探偵』なんてのもやったけど、やっぱり野球が大好きだから『ファミスタ』には熱中させられたよ。アシスタントのみんなとやりはじめると、ついつい熱くなっちゃうんだよね。負けずぐらいの性格なのかな。
キム皇:うおおーーーーーっ!!先生、今度あてキム皇のタイタンズと試合してほしいぜー!

プロ野球ファミリースタジアム'87

プロ野球ファミリースタジアム'87

さんまの名探偵

さんまの名探偵

『翼』の他にも多くのスポーツ漫画を描くだけあって、やっぱりスポーツ系のゲームで遊んでいた模様。その一方で推理ゲームの『さんまの名探偵』もやっていたとは意外。
もしも高橋先生が『さんま』が切っ掛けで『ポートピア連続殺人事件』や『オホーツクに消ゆ』や『ファミコン探偵倶楽部』などの推理ゲームにハマっていたら、『翼』の次の連載はスポーツ漫画ではなく推理漫画になっていたかもしれない。


さて、高橋先生がファミコン版『キャプテン翼』をプレイした感想がコチラ。

■翼くんのゲームに高橋先生もびっくり!!
キム皇:それでは、いよいよ高橋先生にファミコンの『キャプテン翼』をやっていただくぜっ!てつ麿、ゲームの用意はいいかな?
てつ麿:よろしおす。ちゃんとここに用意して……あれ?コラーッ!カルロス!!
カルロス:アミーゴ!このゲームとってもオモシローイですネ。ワンダフルよォー!
キム皇:お前なー、ひとりで勝手にあそんでちゃダメだぜーーー!!
はい、先生。ご自分の作品がファミコンになったのを見たご感想は、いかがですか?
高橋先生:うん、ボクは初めて買ったゲームは『スーパーマリオ』だったんだけど、今はこういったものまでゲームになってしまうんだね。
絵のほうもボクが自分でかいたんじゃないかと思うくらい似てるねェ。
これはゲームっていうより、テレビアニメの翼に近いかな。
てつ麿:そういえば、先生の奥さんは声優の小粥よう子さん(翼くんの声!)なんですけど、奥さんと一緒にゲームはしないんですか?
高橋先生:いやあ、ハハハ。うちのはゲームをしないからね。ボクの対戦相手はいつもアシスタントのみんなになっちゃうんだ。

えぇぇぇぇぇぇぇぇぇーっ!高橋先生の奥さんって、アニメ版『キャプテン翼』で翼くんを演じていた声優さんである小粥よう子さん(後に日比野朱里に改名)だったのかぁぁぁぁぁぁーっ!!…というのも、当時からのファンにはお馴染み過ぎる程に有名な事実。もっとも、僕はこのインタビューで知ったんだけど。
で、高橋先生の「テレビアニメに近い」という感想は、さもありなん。『キャプテン翼』に限らず、この時期にファミコン化された『キン肉マン』『北斗の拳』『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『魁!男塾』といったジャンプ漫画は、性格には「ジャンプ漫画のアニメ化作品のファミコン化」なのだから。


さてさて、ここからは『キャプテン翼』の誕生秘話。野球好きの高橋先生が、どうしてサッカー漫画を描くことになったのか。その素朴かつ根源的な疑問に対する答えとは……。

■しだいに翼はひとり歩きを始めたんだ
てつ麿:先生もやっぱり面白いゲームを買ったりすると、つい手が出たりして仕事ができなくなったりするんですか?
高橋先生:いやあ、僕は絵をかくのだけは早いからねェ、遊びたいときは先に仕事を済ませてから遊びに行くようにしてるんだよ。
キム皇:うおおおー立派だぜっ!!てつ麿ォ、お前も少しは高橋先生を見習わんかいっ!!
てつ麿:ひょえええーーっ!ごめんなさいですうーっ!
カルロス:アハハー、てつサンおこられてしまいましたネー、ダメですネェー。
キム皇:こらこら、カルロスだってひとのことを笑えないぜーっ!!
高橋先生:はっはっ。まあボクだってたまには、しめ切りに追われることもあるからね。
キム皇:ところで先生は野球が大好きなのに、どうして『キャプテン翼』のようなサッカーマンガをかこうと思ったんですか?
高橋先生:それはね、翼の連載がスタートしたのはたしか昭和56年だったと思うけど、あのころはスポーツをテーマにしたマンガというと野球モノばかりだっただろう?だからサッカーの話なら読者のみんなも新鮮なかんじがするんじゃないかな、と思ってかいたんだ。
キム皇:うおおーっ!7年間も翼くんをかき続けたのかー。気が遠くなりそうだぜーーっ!!
高橋先生:それでも途中からは翼をはじめとして、それぞれのキャラクターがひとり歩きし始めたからね。マンガの登場人物たちがボクの手を離れて、自分たちの力で物語を作っていってくれた、という感じだったかな。

『翼』誕生の経緯は高橋先生も複数のインタビューで語っていて、「球漫画とサッカー漫画を交互に描いていて、サッカー漫画の方が評価が良かったから」「1978年のアルゼンチンW杯に感動したから」など諸説ありますが。ここでは至ってシンプルに「サッカー漫画なら新鮮だと思ったから」と。
そして「キャラクターがひとり歩きした」とは、数多の大ヒット作品にあてはまる現象。『翼』の場合も、最初は翼のライバルとして登場した日向小次郎松山光が、中学生編では「絶対王者になった翼への挑戦者」として主人公である翼にも劣らぬ存在感を放つまでになったのだから。


そんな『翼』も7年に渡る長期連載を終えて「完結」したばかり。しかし、当時の高橋先生には描こうと思っていた構想があったらしく、その衝撃の内容がコチラ。

■え?翼くんがワールドカップで優勝!?
カルロス:ミーは早苗ちゃんのファンなのデース。ヤマトナデシコ素敵ネェー。
タカハシ先生はァ、早苗ちゃんみたーいな女の子が、理想のタイプなのですかァ?
高橋先生:うーん、どうかなあ。今思えばそうだったのかもしれないね。『キャプテン翼』が完結しちゃったから、もう早苗ちゃんに会えなくなっちゃって、君たちも残念だね。
てつ麿:連載していたころをふり返ってみて、いったいどんな気持ちですか?
高橋先生:なにしろ7年間だからね、よくここまで続けてこれたと思うよ。だけど、いざ終わってみれば長いようで短かったというのが、正直なところだろうね。
キム皇:1年間で1000ページかいたとしてェ……ひょえええ!7年間で7000ページ!!翼くん、長いあいだご苦労さまでした、だぜーっ!!
高橋先生:本当はね、翼をキャプテンとする日本のプロサッカーチームが、ワールドカップで優勝するところまでは考えていたんだよ。でもそれは日本中の翼ファンの夢だろ?夢がそんなに簡単に現実になってしまったらつまらないだろうし、夢はあくまでも夢として残しておかなくちゃいけないよね。

日本をW杯で優勝させる」とは、連載当初から掲げられていた翼の夢にして最終目標。しかし、当時の日本サッカーはプロリーグも無く、W杯の出場も果たせないのが現実だった。それ故に「漫画であっても描くことができない夢」だった。そして『翼』の物語は、翼が「ジュニア版のW杯」で優勝を果たし、「プロのサッカー選手」になるためブラジルへ旅立つところで、一旦幕を下ろした。
それから時が流れて、日本サッカーにもプロリーグができて、W杯への出場も果たした。そんな現実に後押しされる形で『翼』も復活し、高橋先生が「夢として残しておいた」というW杯優勝に向けて、翼の活躍が続いている。そう考えると、何とも感慨深い。
…それにしても、この時点で「7年間よく続けてこれた」と語る高橋先生だけど。この後、30年後も『翼』を描き続けることになるとは、全く思っていなかっただろうなぁ。


そんな未来など知る由もない高橋先生と伝承者たち。インタビューの締めくくりとして、当然この質問。

■これからもスポーツものをかき続けるぞ
てつ麿:今後の新作の予定なんかは、あるんですか?
高橋先生:フフッ、やっぱり気になるかい?これはまだ企業秘密だから、くわしく教えてあげるわけにはいかないけど、だいたいの構想はもうできてるんだ。まあ、今度の作品もスポーツもの、とだけ言っておこうかな。
キム皇:うおおーーっ!!楽しみだぜーっ!また翼くんに負けないくらい面白い作品を、お願いしますよっ!!
カルロス:どーんなスポーツですかァ?ミーは知りたいデース。
高橋先生:それは見てのお楽しみだね。これからも『キャプテン翼』に負けない面白い作品をかいていくから、みんなも応援してね!
キム皇:今日はホントにお忙しい中、ありがとうございましたーっ!!

エース! 1 (集英社文庫―コミック版)

エース! 1 (集英社文庫―コミック版)

このインタビューから間もなく、高橋先生の新連載となるテニス漫画『翔の伝説』がスタート。その後も野球漫画『エース!』やボクシング漫画『CHIBI』を連載するも、残念ながら『キャプテン翼』程の人気を得るに至らず。ただそれも『翼』の続編を始める一要因になったのも事実なので、今となっては「天命」なのかもしれない。


そんなファミコン版『キャプテン翼』も好評を得て、2年後には続編となる『2』がリリース。ストーリーは完全オリジナルで、ブラジルでプロになった翼や高校サッカーで活躍する岬や日向たちが再び全日本ユースとして集結し、世界のライバルたちと戦う。そんな壮大な物語を一本に詰め込み、今なおファンから高い支持を得ています。その後もゲーム版はスーパーファミコンに舞台を移し、続編が『3』『4』『5』とリリースされる長期シリーズとなり、漫画が『ワールドユース編』として復活するまでの間、『翼』人気の維持に大きな役割を果たしました。
キャプテン翼II

キャプテン翼II

キャプテン翼3

キャプテン翼3

キャプテン翼4

キャプテン翼4

キャプテン翼5

キャプテン翼5

おりしも来月には「ミニファミコン 週刊少年ジャンプ創刊50周年記念バージョン」が発売予定でファミコン版『キャプテン翼』も『1』と『2』が収録予定となっています。興味のある方は、ぜひともプレイしてみて下さいな。