思い付くまま『シティーハンター』
今年最初の更新となる今回は、20年ぶりの新作アニメが劇場公開されて大ヒット中&大好評中の『シティハンター』より、原作者の北条司先生と主人公・冴羽リョウを演じる声優・神谷明さんのインタビュー記事を紹介。
20年ぶりの復活だからこそ語られた意外な裏話や作品への想いが満載で、読み応え充分な記事となっております。
■「劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>」特集 北条司(原作者)×神谷明(冴羽リョウ役)インタビュー(コミックナタリー)
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──「シティーハンター」は原作の連載開始から今年で34年。本当に長い間愛されている作品ですが、今回の映画で初めて作品に触れる人もいると思います。そういう人に改めて説明するならどういう作品でしょう?
北条 一言でいえば「エンタテインメント」です。今では珍しい、ファンタジー系ではないタイプの。今のアニメ作品って現代劇でもファンタジー要素が入っていたりするものが多いですけど、これは「昔ながらの」といったらおかしいですが、ファンタジーではない活劇アニメーションのエンタテインメントという感じですかね。
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「エンタテインメント」に「活劇」とは、これ以上無い程に的確な言葉。魅力的な美女あり、銃撃戦やカーチェイスなどのアクションあり、そして何より「100tハンマー」に代表されるコミカルなシーンまで、現実離れした面白要素が盛りだくさん。現代社会の象徴である新宿が舞台なので「ファンタジー」とは言い難いけど、アニメでしか描き得ない唯一無二の作風を確立している。
そして『シティハンター』の主人公・リョウを長年演じて、その魅力を誰よりも理解しているであろう神谷明さんは、こう語っています。
──神谷さんはリョウについて、特に思い入れのあるキャラクターだとよくお話ししていますよね。
神谷 もう本当に、リョウに出会えたことは人生の中でもベスト3の中に入ります。それぐらい僕にとっては大きな出来事であるし、生きていてよかったと思えることですね。「これは僕の役だ」「僕しかできない」って思ってオーディションに臨み、ドキドキしながら結果を待っていたというのは、後にも先にも冴羽リョウという役だけです。
──神谷さんの演じた役だと、たとえばキン肉マンもリョウと同じようにシリアスなところとギャグっぽいところがあるキャラクターだと思うんですが、それともまた違うんでしょうか?
神谷 声で言うとキン肉マンのギャグの声は割と作ったダミ声で演じています。リョウと似ている部分があるのはキン肉マンだけじゃなくて、優しくてカッコいい、強い部分は(「北斗の拳」の)ケンシロウっぽかったりもしますね。ただ、冴羽リョウというのは本当に僕の持ってる声をすべて注ぎ込んでも全部受け入れてくれる。あんなにキャパシティの広いキャラクターはほかにいないです。だから、演じていても自分では「この声はおかしいだろ」「この芝居はおかしいだろ」というようなことを感じることがなかった。たぶん観ている方も違和感なく受け入れてくれていたんじゃないでしょうか。それはもうキャラクターの力ですね。北条さんには「よくぞこのキャラクターを生み出してくれた!」と感謝するしかないですね。
北条 こちらこそありがとうございます。
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『シティーハンター』が始まった1987年は、前年に『キン肉マン』が放送終了し、『北斗の拳』もケンシロウとラオウとの激闘が完結した頃(それに伴い『北斗の拳2』と改題して新シリーズがスタート)。神谷さんにとっても長年演じていたキン肉マンとケンシロウというキャラが一区切りを迎え、声優としての転機を意識していたのか。それ故にオーディションにも並々ならぬ意気込みで臨んだと思われる。
念願かなってリョウを演じることになった神谷さんにとっては「持ってる声をすべて注ぎ込んでも全部受け入れてくれる」と語るように、演じるたびにその時点での「声優・神谷明の集大成」となる。まさに役者冥利に尽きるキャラクター、それが冴羽リョウなのでしょう。
続いては今回の映画の裏話へ。北条先生も携わったというプロット作成では、原作漫画の読者にとっては驚くべきキャラの名前も…。
──今回の映画は北条先生も監修という形でいろいろアイデアを提供したと伺っています。
北条 (とぼけて)出したかな? 僕はもう気楽なもんで、「おまかせー」って感じなんです(笑)。
スタッフ いえ、プロット段階から北条先生にアイデアをいただいて変えていきました。
北条 ああ、話の時間軸とかね。最初のプロットが、原作の「シティーハンター」の最終回後の世界を表現していたんです。でも、アニメでは原作の最終回までは描いていないんですよ。だから、原作終了後の世界をいきなりアニメで描くのはちょっと違和感があって。アニメのファンには、アニメでは描かれなかった原作のエピソードを知らない人もいるでしょう? 原作でしか描かれていないキャラクターの話がいきなり出てきてもわからないんじゃないかなって。だから、今回の映画は「アニメが終わった時点での関係性でやる」という形に変えたんです。
──アニメでやっていないエピソードというと原作の海原神編なんかが有名ですよね。例えば最初は海原なんかがプロットに入っていたんですか?
北条 入ってました。(海原が)すでに死んだ状態で出てくるわけです。でも、そうすると「アニメでいつ死んだ?」ってならない?(笑) ファンの人も「海原、アニメで観てないじゃん」って思うかもしれないじゃないですか。
スタッフ そこをやるならきちんと海原について描かないといけないから、映画1本では収まらない、とおっしゃってました。
(中略)
北条 映画って後先を考えさせちゃいけないと思うんです。「この映画の前にこういう話がありましたよ」ってことになれば、「でもそれを観てないからわからない」って人も出てきてしまう。単品でポンっと出して「どうですか?」「美味い!」、これが映画だと思ってるので。今回の映画は第一にファンへの恩返しではあるんだけど、そうでない人が観てもちゃんと楽しめるものをっていうのを目指してもらいたい、と。
神谷 そうですね。「シティーハンター」のことを何も知らない人が観に来ても違和感なく入ってこられるっていう。それは本当にそうだと思いますね。同時に「これで最後」ってものでもない。
北条 このあとも続いてほしいし、最後の作品ってわけではないですからね。
神谷 だから、リョウと香の関係性みたいなものも、「もうこれで完成」みたいな形には絶対してほしくなかった。だって誰もさ、完結するところなんか見たくないじゃん、こういうものは。
北条 そうなんですよね。「これからも続いていくぜ」的に終わったほうが絶対にいいんですよ。
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最初は犯罪組織「ユニオンテオーペ」を率いる謎の人物「長老(メイヨール)」として登場。シティーハンターを配下にすべく香の兄・槇村に接触するも拒絶されたため殺害。そしてリョウ(と新たなパートナーとなった香)と対決するも、部下を次々に倒されたことから「手を引く」と言い残し、物語から組織ごと姿を消す。
しかし終盤に再登場し、そこで初めて海原神という名前と、彼がリョウの「おやじ」だという衝撃の事実が明かされる。そして、リョウと海原の決着から程なくして原作漫画は連載終了。そのため海原はラスボス的な存在であり、海原編が事実上のクライマックスとなっている。
アニメでは原作漫画終了後に作られたテレビスペシャル版も含めて、ユニオンテオーペも海原も登場していないので(槇村を殺したのも別の組織となっている)、今回の映画でいきなり登場させるのは確かに無理がある。さりとて海原編をしっかりと作ろうとしたら、それだけで映画1作、否、1クールのテレビシリーズが必要。そして何より海原との決着を描いたら、それがアニメの「完結編」になってしまいそう。だから、アニメ版では敢えて海原は登場させずにいるのかもしれない。
「20年ぶりの復活作」が「20年越しの完結作」になってしまうのも寂しいし。神谷さんが語る「誰も完結するところなんか見たくない」というのが、スタッフやキャスト、そしてファンの共通した想いに違いない。
さて、北条先生が『シティーハンター』の原作漫画が連載終了したのが1991年だから、およそ30年前。後に「パラレルワールド」である『エンジェル・ハート』を連載するも、『シティハンター』の冴羽リョウと再会するのは20年ぶり。その心境は…。
──「シティーハンター」の冴羽リョウが新たに描かれるのは本当に久しぶりですが、今回改めて再会してみていかがですか?
北条 僕自身は「シティーハンター」のあとに「エンジェル・ハート」も描いているから、ずっとリョウは描いてるわけですけども、やっぱり歳とともにリョウのキャラって変わるんですよね。考え方にしろなんにしろ。だから、「エンジェル・ハート」のリョウと「シティーハンター」のリョウは、まったく別人とはいわないまでも、ちょっとキャラクターが違う。だから、久々に「シティーハンター」のリョウに接すると「あー、こうだったよねー……」という感慨がありますね。「僕にはもうこの頃のリョウは描けないんじゃないかな」という感覚に襲われました。
──それは先生自身の考え方の変化があったから?
北条 それもありますし、ギャグって飽きるじゃないですか。見る分にはまだ笑えるんです。でも、自分でもう1回ギャグを描こうとすると、どうしても「これ面白いかな」って思っちゃうの(笑)。「同じことばっかりやってるな」って。だから、今でもよく「『シティーハンター』描いてくれ」って言われるんですけど、描けるぐらいならアニメにしようって言わないですよ(笑)。僕が今「シティーハンター」を無理やり描いたら袋叩きにあいますよ、「こんなのリョウじゃない」って(笑)。当時のリョウはもう僕には描けない。アニメだからこそ当時の「シティーハンター」が再現できると僕は思っています。
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『シティハンター』以降の連載作品は、それまでの「美女とアクション」路線から一変。植物と心を通わせる少女を描いた『こもれ陽の下で…』や、一風変わった家族模様を描いた『F.COMPO(ファミリー・コンポ)』と、ヒューマンドラマをメインにした作品を描き続けた。それは『シティハンター』の「パラレルワールド」である『エンジェル・ハート』でも同様に、「シティハンターこと冴羽リョウ」が主人公の作品でありながらも、アクションやコメディを抑えたヒューマンドラマ路線となった。
同じ漫画家であっても、一期一会の如くその時にしか描き得ない作品やキャラクターがあるとしたら、北条先生にとってはまさに『シティハンター』と、その主人公・冴羽リョウこそが、そんな「運命の作品とキャラ」だったのでは。過去にも北条先生は、上で紹介した『北条司イラスト集』(発行は連載終盤の1991年3月)に掲載されていたインタビューではリョウについて「キャラクターをつかんだというよりも、リョウという人間に出会ってしまった」とコメントしている。
北条先生が『シティハンター』という作品を始めたことで奇跡的に「出会えた」冴羽リョウというキャラクターが、アニメ化を経て神谷明さんなど多くの人によって成長し、多くのファンに愛されるようになった。
そして連載終了と共に「もう描けない」と別れを告げたはずが、20年越しにアニメが復活して再会を果たせた。そう考えると、何度もドラマティックな事だ。
今回の新作アニメ『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』は大ヒットを記録して、大勢のファンが今回の復活を喜んでいる。そんな中でリョウとの「再会」を一番喜んでいるのは、他ならぬ北条司先生と神谷明さんに違いない。そう思わせてくれるインタビューでした。