思いつくまま『キャプテン翼』

今回はサッカー漫画の金字塔『キャプテン翼』について。


今年6月に発売された『キャプテン翼 ライジングサン』6巻で、シリーズ通算100巻を達成したということで、作者である高橋陽一先生のロングインタビューがあったので紹介。

■「キャプテン翼 ライジングサン」高橋陽一インタビュー(コミックナタリー)
──今あらためて1巻を読むと、翼が母親に「どうして日本はサッカーがそんなにさかんじゃないの」と尋ねるシーンがあったり、「ワールドカップ」という単語に対して解説が掲載されていたりと、当時のサッカーを取り巻く状況が今とまったく違うことに気付いて驚かされます。


「ワールドカップ」なんて、あまり浸透してない時代でしたから。とはいえ、サッカーというスポーツ自体は学校の体育の授業でもやりましたし、それほど奇抜でマイナーなスポーツではなかったですね。だけど大ヒットしたサッカーマンガは当時まだなかったと思います。
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キャプテン翼 (1) (集英社文庫―コミック版)

キャプテン翼 (1) (集英社文庫―コミック版)

『翼』の連載開始は1981年。今でこそサッカー漫画は定番ジャンルになったけど、当時はマイナーなジャンルだった上、現実の日本のサッカー界もプロリーグも無ければワールドカップ(W杯)出場も夢物語だった時代。それ故に、シリーズ1巻を読み返すと「主人公がサッカー好きだから友人ができずボッチだった」とか「主人公の母親がワールドカップを知らない」など。今では漫画であっても許されないであろう描写がチラホラ。
それでも高橋先生が語るように体育などで認知度はあったし、部活や社会人リーグで競技人口もいた。ただ、社会一般の人気を得るための「爆発力」に欠けていた。その役割を担ったのが1993年のJリーグ開幕であり、その数多ある起爆剤の一つがサッカー漫画『キャプテン翼』の大ヒットだった。…というのは歴史的な今や常識。







続いては、作品の特徴である「必殺技」について。その誕生秘話がコチラ…。

──「キャプテン翼」の連載を始めて、手応えを感じ始めたのはどのあたりでしょう。


最初の南葛小と修哲小の対抗戦を描ききったくらいで、「サッカーマンガってこう描けば大丈夫かな」というのがなんとなくつかめた感じがあります。あと序盤は読者アンケートの結果があまりよくなかったんですが、翼がオーバーヘッドキックをした回で人気がグッと上がったんです。そこで「読者はこういうものを求めていたのか」と気付きました。


──やはり少年マンガにはそういった必殺技というか、スーパープレイが重要なんですね。


そこは日本の伝統的なスポーツマンガの流れですよね。「巨人の星」なら大リーグボールとか。僕はそういう必殺技を子供の頃から素直に受け入れて、面白いなと思って読んでましたから。それをサッカーに置き換えたイメージですね。
とはいえ現実からあまりかけ離れてしまうのもよくないなと思ったので、さじ加減は難しかったです。やろうと思えばどんどんエスカレートしちゃうところではあるんですけど、やりすぎると超人マンガになってしまうかなと思ったんで。
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少年漫画のお約束といえば、各キャラクターの代名詞となる「必殺技」。それはスポーツ漫画でも同様で、当時の読者が求めていたのはサッカーというスポーツを描くことではなく、サッカーというスポーツの中で描かれる「必殺技という名のスーパープレイ」だったのかもしれない。
現実のサッカーとの折り合いには高橋先生も苦労されたみたいで、今なおネットでネタ画像として紹介される「立花兄弟のスカイラブハリケーンを防ぐため、来生と滝がゴールバーの上でスタイバイ」は、さすがにやり過ぎたと反省している模様。


さて『翼』といえば、主人公の翼くんの他にも個性的なキャラが多く登場する。「天才ゴールキーパー」の若林くんに、翼と「ゴールデンコンビ」を組む岬くん。強烈なハングリー精神を持つ「猛虎」日向くんに、心臓病のハンデを抱えながらも華麗なプレイを見せる「ガラスのエース」三杉くん。
そんな中、作者の高橋先生ですら予想できない程の成長をしたキャラもいるらしく...。

──逆に当初は予想していなかったような成長を遂げたキャラもいるんでしょうか。


石崎くんは最初出したときには、ここまで残るキャラだとは思っていなかったですね。自分の想像以上にずっと生き続けています。


──第1話から出ていますし、コメディリリーフとして欠かせないですよね。


翼にとって、岬くんとは違った形の相棒ですね。今では日本代表にまでなってますから。
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石崎くんは「おんぼろ南葛小サッカー部のキャプテン」として1話から登場…、否、石崎くんが「南葛市に転校してきた謎の天才サッカー少年」こと翼くんと出会うところから『キャプテン翼』の物語は幕を開けるのだ。そして、天才的なテクニックや超人的な必殺技を身に付けたワケでも無いのに、一貫して翼のチームメイトであり続けた。
そんな石崎くんは少年漫画でいうところの「読者の分身キャラ」なんだろう。主人公(ヒーロー)と行動を共にして、超人的な活躍こそしないけど、気が付けば物語で欠かせない存在になり、読者の代わりに翼くんと共に活躍する。そして何より「翼くんに出会ったことにより成長して、ついには世界で戦うサッカー選手となった」という石崎くんの成長物語は、そのまま日本サッカーそのものに当てはまる。



そして、全ての読者にが抱いているであろう質問について、高橋先生はこんな展望を語っている。

──やはり読者としては、「キャプテン翼」で日本がワールドカップ優勝するシーンが見たいんですが、今後「ワールドカップ編」は予定していないんでしょうか。


歳も歳なので……ワールドカップを描くとしたら相当な覚悟が必要なんですよ。とりあえずオリンピックの話を描き終えたとき、「これ以上はいいや」と感じるのか、「いや、今度はワールドカップを描こうかな」と思えるのかは、今の自分では想像がつかないというのが正直なところではあります。ですが「ワールドカップ編」が描けるように、応援してもらえるとうれしいですね。
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一度は「少年ジャンプ」での連載を終えながらも、現実の日本サッカー界の盛り上がりに合わせて「ワールドユース編」として復活。その後も掲載誌やシリーズを変えながらも続いているのはご存じの通り。
では、もしも「ワールドカップ編」をやるとしたらどうなるのか。高橋先生の「相当な覚悟が必要」という言葉も示す通り、チームの立ち上げからアジア予選、そしてW杯本大会(もちろん決勝戦まで)を描く超長期連載になるはず。そこまで無事に描き切れるだろうか。
事実、「ワールドユース編」は3年(1994~1997年)に渡り連載されるも、終盤は打ち切りの影響で駆け足な展開になった。そして現在のオリンピック編も断続的なシリーズ連載で、足掛け10年に渡っている。この調子で「ワールドカップ編」を描かれるのは、読む方としても正直ツラい気もする。
いっそ、「ワールドカップ編」は「本大会の決勝戦であるブラジル戦(※連載開始時からの既定路線です)だけを集中連載形式で描く」というのはどうだろう。