10話でわかる『機動戦士Ζガンダム』

久々の更新。そして新企画の第1回目です。


懐かしの名作アニメを観たいけど、通年放送の全50話近くある作品だと、全部観るのが面倒くさい。
じっくり全話観る前に、まずはざっくりと大まかに流れを掴んでおきたい。
そんなアナタにおススメしたい、厳選した「よく分かる10話」を紹介する企画です。


今回「よく分かる10話」を紹介するのは、こちらの作品。


■『機動戦士Ζガンダム』(放送:1985年3月~1986年2月・全50話)



Ζガンダム』といえば大ヒットした『機動戦士ガンダム』(いわゆる「ファーストガンダム」)の直接の続編ですが「メインキャラの大半が新キャラ」「複数の勢力が入り乱れる難解なストーリー」「主人公が精神崩壊する悲劇的な結末」などなどの挑戦的な内容から、放送当時は厳しい声が挙がりました。
しかし『Z』を切っ掛けにガンダムシリーズが長期化されると再評価もされて、放送から20年経った2005年から2006年にかけては「新約」としてストーリーを再構築した劇場版三部作が公開されました。時間的に短くて分かりやすいことから、こちらで『Z』を観たという方も多いでしょう。


とはいえ劇場版三部作だけでは分からない、『Z』を今なお「傑作」とも「問題作」とも語り継がせるだけの要素が、テレビシリーズ全50話の中にはあるはずです。
ということでテレビシリーズ版『Ζガンダム』より、僕が独断と偏見と個人的な見解と考察を元に厳選した「『Zガンダム』がわかる10話」は、コチラです…。

  1. 1話:黒いガンダム
  2. 12話:ジャブローの風
  3. 14話:アムロ再び
  4. 20話:灼熱の脱出
  5. 33話:アクシズからの使者
  6. 36話:永遠のフォウ
  7. 37話:ダカールの日
  8. 46話:シロッコ立つ
  9. 49話:生命散って
  10. 50話:宇宙を駆ける

目次
About 10 Episodes ~よく分かる10話について~
Pick Up Episode~37話:ダカールの日~
What is 『Ζガンダム』~『機動戦士Ζガンダム』とは何なのか~





■About 10 Episodes ~よく分かる10話について~
《1話:黒いガンダム》は「連邦とガンダムが敵で、シャアが味方」という衝撃の幕開け。そして『Z』を漠然と「優しい少年だったカミーユが戦争に巻き込まれて変貌して行く話」だと認識している方は、これを観て考えを改めるように。
《12話:ジャブローの風》はアムロたちホワイトベースの皆が必死に守ったジャブローを、今度はカミーユたちが攻める皮肉な話。善悪や勢力図が複雑な本作を象徴するエピソード。
《14話:アムロ再び》は待ってましたのアムロ復活回。戦闘中のシャアとアムロが互いを認識していないのに「何をする気だアムロ!…アムロだと?」「下がっていろシャア!」と無意識のうちに口走るのが粋。
《20話:灼熱の脱出》はカミーユとフォウの別れがドラマティックに描かれる傑作回。森口博子さんが歌う挿入歌「銀色ドレス」も感動的。
《33話:アクシズからの使者》ではジオン直系勢力のアクシズからハマーンとミネバが登場。この2人との因縁は次作『ZZ』、さらには『UG』まで続くので宇宙世紀シリーズにおいても重要回。
《36話:永遠のフォウ》はフォウとの再びの、そして永遠の別れ。『Z』という作品の、ひいてはガンダムシリーズの悲劇性を象徴するエピソード。
《37話:ダカールの日》については後述の「Pick Up Episode」にて紹介。
《46話:シロッコ立つ》は一隻の戦艦にハマーンアクシズ)・ジャミトフ(ティターンズ)・シャア(エゥーゴ)と各陣営の頭目が集結。そしてシロッコが時代を動かすべく行動を起こす。最終決戦の幕開けとなるエピソード。
《49話:生命散って》はついに迎えた最終決戦。カツが、ヘンケンが、ジェリドが、レコアが、メインキャラが味方も敵も次々と散ってゆく衝撃のエピソード。
《50話:宇宙を駆ける(最終回)》は今なお語り継がれる衝撃のラスト。シャアはハマーンシロッコに追い詰められた末、逃げるように姿を消す。そしてカミーユは全ての力を開放してシロッコを倒すが、その代償は余りにも大きかった。


…と『機動戦士Ζガンダム』テレビシリーズ全50話より10話分をセレクトしてみました。主役機であるZガンダムの登場回(《21話:Zの鼓動》)が外れたのも、ドラマがメインの本作ならでは。そんな中でもドラマ的なターニングポイントにして、モビルスーツ戦が盛り上がる話をセレクトしてみました。


■Pick Up Episode~37話:ダカールの日~
個人的にピックアップしたいのが中盤最大の見せ場であるシャアのダカール演説のある《37話:ダカールの日》。前話でフォウの死という作品最大の悲劇がありつつも、それを覆すように希望に満ちた話になっています。


ここまで迷い続けて煮え切らない態度だったクワトロことシャアがエゥーゴ(=ガンダムファン)からの期待を背負い、ついに歴史の表舞台に立つ決意をする。そんなシャアをサポートすべく、我らが主人公カミーユや、かつてのライバルにして前作主人公のアムロモビルスーツを駆る。特にカミーユはフォウの死で胸中穏やかならずなはずなのに、それを感じさせない冷静な戦いぶり。市街地に墜落しそうな敵機を支えて不時着させる余裕まで見せる。


加えて印象深いのがゲストキャラのアジス・アジバ(CVは次作『ZZ』で主人公ジュドー・アーシタを演じる矢尾一樹さん!)。敵であるティターンズの一員ながらベルトーチカへの嫌がらせをする警備兵を咎める良識的な人物として登場。さらにシャアの演説やカミーユの戦いを見聞きして、自分が信じていたティターンズの(というかジャミトフが主張する綺麗事だらけの)正義に疑念を持ち始める。そして議事堂を壊してでも演説を止めさせようとするジェリドを抑えようとして撃墜されてしまう。そんな悲劇的なキャラですが、敵側にも分かり合えそうな人がいることを示す重要なキャラです。


そんなアジズの劇中最後のシーンは「半壊した機体のコックピットで気絶」で、その後は劇中に一切登場せず安否も描かれないので生死は不明となっています。何かの外伝作品で「実は生きていて」と再登場を期待したいキャラです。ゲーム『スーパーロボット大戦』に登場して自軍入りというのも期待。


そして何よりラストシーン。作戦の成功を祝いシャアとアムロが笑顔でグラスを合わせる。しかも「人身御供」なんて物騒な言葉で冗談を言い合っている。そんな二人の姿を見たカミーユは感慨深げに「感動してるんです。人って絶対共感できるって」「全ての人たちとの共感が得られる時代が来たら、死んでいった人たちにも何処かで巡り会える。そんな気がするんです」と語る。
もうね、この回が『Zガンダム』の、否、後続の『ZZ』や『逆襲のシャア』を無しにして、宇宙世紀ガンダム全体の最終回だったら思うほどのハッピーエンド。最後に小杉十郎太さんのナレーションで…

シャアのダカール演説によって世論は一気にエゥーゴ支持へと動いた。
一方、ティターンズは演説を力ずくで止めようとしたことを切っ掛けに世論の支持を失い、それまで隠蔽されていた悪事も明るみになったことで離反者が相次ぎ、瞬く間に瓦解した。
そして漁夫の利を狙っていたアクシズもアステロイドベルトへ撤退。
こうして、後に「グリプス戦役」と呼ばれる三つ巴の戦いは終結し、地球圏にひと時の平和が訪れた。


クワトロ・バジーナことシャア・アズナブルは「キャスバル・レム・ダイクン」として政治家への道を歩み、アムロ・レイブライト・ノアエゥーゴの発展的解消に伴い連邦軍に復帰。
そしてカミーユ・ビダンファ・ユイリィと共に、穏やかな日常へと還っていった。


『機動戦士Zガンダム』-完-

…で大団円にしたくなるぜ!


とはいえ、ここで安易に終わらず、追い込みをかけるようにシリアスな展開が続くのが『Z』の真骨頂であり、今なお語り継がせる一作たらしめる所以。むしろ全体からすると浮いてしまう程のポジティブな話。それ故に新約劇場版ではでカットされたのも納得できます。


■What is 『Ζガンダム』~『機動戦士Ζガンダム』とは何なのか~
Zガンダム』については解説や評伝で数多語られているので、ここでは僕個人の思い出や感想を中心に語ります。
実は放送当時、『Z』をリアルタイムでは観ていませんでした。そして児童誌などに載っていた情報を見た印象は「これは"続編"じゃなくて"最新"のガンダム」でした。例えるなら90年代以降に制作された『ガンダムW』や『ガンダムSEED』、そして現時点での最新作である『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のような作品だと思っていました。
ファーストガンダムはキャラクターやメカのデザインに70年代スーパーロボット的な雰囲気を残していました。それが80年代前半にリアルロボットのブームがあってロボットアニメのデザインが一気に洗練されて、それを経て作られた『Z』はファーストガンダムの続編である以上に「ガンダムの最新アップデート版」に見えました。


もちろん設定上は『Z』はファーストガンダムの続編で、その証明としてシャアやアムロやブライトも登場していますが、それもウルトラマンシリーズの『A』や『タロウ』に初代マンやセブンやジャックが登場するような「別作品からの客演」だと感じていました。なので後に客演どころじゃない、メインキャラとしてガッツリ関わってくるし、世界観もしっかり「続編」として連続していることを知り驚きました。


そんな『Zガンダム』を本格的に観たのはゲーム『スーパーロボット大戦F』(1997年発売)が切っ掛け。それまで前述のように「難解」だの「暗い」だの悪評を耳にして、それでも『スパロボ』でキャラやメカに触れて興味を持ち、半ば怖いもの見たさでした。
そしていざ観てみたら、確かに難解でシリアスで悲劇的な結末ですが、それが「欠点」ではなく「特徴」になっている。カミーユやシャアが様々な苦悩を抱えながらも必死に戦い続けるドラマが観応え充分。加えて登場するモビルスーツがどれも個性的(特に永野護さんデザインのハンブラビキュベレイが秀逸)。またガンダムシリーズのキーワードである「ニュータイプ」の描写もオーラを発するなど派手で、戦闘シーンもハイテンション。様々な面で濃厚な一作でした。
そして何より『Z』の特徴である「主人公やメインキャラが前作と違う」「難解でシリアスなドラマ」「個性的なモビルスーツが次々登場」が、今やガンダムシリーズのパブリックイメージになっている。ファーストがガンダムシリーズの「原点」だとしたら、『Z』は「方向性」を決めた重要作といえます


そんな『Zガンダム』に興味を持った方は、今回紹介した10話分からでも観ることをおススメします、